天才と秀才 〜超えられぬ境界線〜『アマデウス』

いらっしゃいませ。

「名作BAR」のMasterYです。

本日の名作は『アマデウス』となっております。

天才音楽家モーツァルトとその才能に嫉妬し続けた秀才音楽家サリエリ。本作は、この2人の音楽家生涯を懸けた魂の物語です。

冒頭に奏でられるモーツァルトの音楽から間髪入れずに観客たちを圧倒してきます。誰でも一度は耳にしたことがあるあの有名な音楽が大音量で鳴り響くのです。最初から最後まで私はモーツァルトの音楽に魅了されてしまう人は多いことでしょう。

それでは、本日の「名作BAR」開店です。

物語の概要

本作は晩年のサリエリが自身とモーツァルトとの関係について神父に向かって回顧していくという形で進んでいく。

つまり、モーツァルトの死をサリエリ視点から考えるのである。モーツァルトという「天才」に「凡庸なる者の頂点」であるサリエリが挑戦する物語だ。

ピーター・シェイファーによる戯曲を「カッコーの巣の上で」のアカデミー賞コンビ、製作ソウル・ゼインツ&ミロス・フォアマン監督で映画化。

本作の魅力

アメリカ映画であるが、音楽と衣装のおかげでウィーンの雰囲気を上手く出すことに成功している。

演者が全て英語で喋っていることが途中から気にならなくなるくらい物語に没頭できたのである。さすがハリウッドだ。

そして、オペラがこの映画に何度も登場するのだが、どれもみな見応えがあり素晴らしかった。

こんなにも壮大で音楽が素晴らしく、かつストーリーも巧妙なモーツァルト映画は、二度とお目にかかれないのではないか。

この映画を超えるモーツァルト作品に再び出会いたいものである。

モーツァルトとサリエリ。音楽が彼らを引き合わせ、そして引き離した。彼らは、2人だけにしかわかり合えない世界を築き上げていた。

2人は音楽を通じてお互いの才能を尊重しながら、コミュニケーションを取り合っていたのだ。

私はレクイエムの譜面を2人で協力して仕上げていく場面を観て、モーツァルトとサリエリの間に友情の灯が宿ったのではないかと信じている。

悪者扱いされても漂う善人の香り

本当にサリエリはモーツァルトを憎んでいたのであろうか。

どうも私にはそうは思えない。本作に悪い奴など存在していなかったのだから。

むしろ史実では、モーツァルトがサリエリを憎んでいたという。

就職活動が上手くいかないモーツァルトは、世渡り上手なサリエリに嫉妬していたのだ。

サリエリの人柄がほのかに伝わってくるエピソードがいくつかある。

例えば、サリエリは指導者としても優れており、多くの才能ある若者たちに無償でレッスンをしていた (やまみち, 2021)。

彼の門下生には、「リスト」、「ベートーヴェン」、「シューベルト」など今となっては超有名音楽家たちがいたほど。

また、宮廷楽長に就任してからは貧困に苦しむ音楽家たちの生活を救うために嘆願書を作成して皇帝に提出していたという (やまみち, 2021)。

モーツァルトはサリエリの「人格」に、サリエリはモーツァルトの「才能」にそれぞれ惹かれ合っていたのだろうか。

サリエリの人の良さは、たとえ悪者として描かれていても消えはしない。私はそのように強く感じたものだ。

私の1番好きな場面

私の1番好きな場面は、サリエリがモーツァルトのことをベタ褒めする場面である。

その中でも特に「フィガロの結婚」のリハーサルの場面と「ドン・ジョヴァンニ」のオペラの場面が非常に印象に残っている。

「フィガロの結婚」のリハーサルでは、皇帝があくびを1度したのとは対照的に、サリエリは「フィガロの結婚」に圧倒され、このオペラを褒めちぎるのである。

その時に見せる顔と名言が見所であろう。「1小節ごとに私は敗北の苦さを噛みしめた」。このモーツァルトへの最大の讃辞が印象的である。

私にはモーツァルトのもつ才能にサリエリが心底惚れてしまっているように感じられたなあ。

「ドン・ジョヴァンニ」では、観客にこのオペラの素晴らしさを理解されることのないまま、すぐに公演が打ち切りになった。

しかし、サリエリだけは絶賛していた。「私にはわかる」という言葉が印象深い。

そう、サリエリにはわかるのである。

これが、天才に1番近い「凡庸なる者の頂点に立つ者」のもつ才能なのであろう。

サリエリが纏っている善人のローブが見え隠れして、彼の愛くるしさを体感できるイチオシの場面であった。

おわりに

劇中でサリエリは自分のことを「凡庸なる者の守り神」と言っていた。

これは、天才に挑めるのは、私のような「凡庸なる者の頂点」に立つ者だけだということだろう。

サリエリは、天才の作った音楽を理解することのできる秀才であったのだ。

天才と秀才、この両者の違いは大きい。努力をすれば、天才の創作した作品を理解することはできる。

しかし、秀才の創作した作品は、天才の作品にはどうしても敵わない。これが生まれながらに神が人間に授けた「才能」の差である。

努力だけでは、カバーできないこともあるのだ。サリエリに共感できる人たちも多いのではないか。

サリエリを演じたF・マーレイ・エイブラハム、そしてモーツァルトを演じたトム・ハルスにスタンディングオベーションを捧げたい。

特に2人で協力してレクイエムの譜面を書いている際の演技には感動させられたなあ。本当に素晴らしい作品であった。

本日の名作『アマデウス』

【キャスト】
アントニオ・サリエリ:F・マーレイ・エイブラハム
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト:トム・ハルス
コンスタンツェ・モーツァルト:エリザベス・ベリッジ
レオポルド・モーツァルト:ロイ・ドートリス
エマヌエル・シカネイダー:サイモン・キャロウ
皇帝ヨーゼフ二世:ジェフリー・ジョーンズ

【スタッフ】
製作:ソウル・ゼインツ
原作・脚本:ピーター・シェイフォー
監督:ミロス・フォアマン
撮影:ミロスラフ・オンドリチェク
衣装:テオドール・ピステック
音楽:ネヴィル・マリナー

【作品情報】
製作国:アメリカ
製作年:1984年
上映時間:160分

出典 : 【YouTube】Movieclips Classic Trailers 「Amadeus (1984) Official Trailer – F.Murray Abraham, Mozart Drama Movie HD」

参考文献

やまみちゆか (2021)『クラシック作曲家列伝 バッハからラヴェルまで 12人の天才たちの愉快な素顔』マール社

関連作品:『邦画プレゼン女子高生 邦キチ!映子さん Season7』

服部昇大 (2022)『邦画プレゼン女子高生 邦キチ!映子さん Season7』集英社

少女漫画の皮を被った「超絶マニアック邦画」プレゼン漫画で『アマデウス』のオマージュを発見!

本巻で初登場の話題キャラ「池ちゃん」が、邦キチのマニアックさを目の当たりにし、『アマデウス』でのサリエリのようだと心の中で呟く。

池ちゃんよ、さすがにそれはサリエリに失礼ではないか!?

それでは、次の名作でお待ちしております。

コメント

  1. まお より:

    邦キチの池ちゃんしっかり抑えてるところ作品抑えてるw

    『アマデウス』、マタミマスゥ!

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