いらっしゃいませ。
「名作BAR」のMasterYです。
本日の名作は『THE 有頂天ホテル』となっております。
三谷幸喜と個性派揃いの豪華俳優陣たちがお送りする最高のエンターテイメントショーです。
彼が周到な準備を重ねて仕掛けた笑いの地雷をものの見事に演者が踏んでいく様を観ると、思わず元気が出てしまうこと間違いありません。
難しいことなど考えることなく楽しめるのが最高です。
年末からお正月にかけて家の中でゆっくりしている時に、何も考えずに笑って観るのに適していますよ。
それでは、本日の「名作BAR」開店です。
物語の概要
大晦日の都内高級ホテル「ホテルアバンティ」では、ホテルの威信がかかったカウントダウンパーティーの準備で大忙し。
このホテルの宿泊部長かつ副支配人を務める新堂平吉は、パーティーの準備だけでなく、厄介な宿泊客の対応にも追われる羽目になり、四苦八苦する。
そんな状況でも彼は1つ1つ冷静に臨機応変な対応をやってのけていた。ホテルの廊下で新堂は、元奥さんにばったり出会うまでは‥。
冷静でしっかり者の新堂が徐々に変わり果てていく。
さて、「ホテルアバンティ」は無事に年越しカウントダウンパーティーを成功させることができるのか。
大晦日の夜22時から年明けまでという2時間もの間、ホテルの中で繰り広げられる様々な人間模様を描いた作品である。
本作の魅力
ホテルという題材を最大限に活かしきった作品であった。ホテルならではのハプニングの連続で、大いに楽しませてもらったものだ。
そして、同時に大晦日のホテルマンの忙しさを感じさせてくれる作品でもあったなあ。
「ホテルアバンティ」で働く従業員たち、カウトダウンパーティーに出演するために来た芸人たち、そして様々な訳ありの宿泊客たち。
彼らの物語はすべて「ホテルアバンティ」の中で縦横無尽に絡み合っていく。
あるエピソードの主人公が、別のエピソードでは脇にまわったりするのがとっても魅力的だ。
三谷幸喜監督作品として3作目となる本作は、主要登場人物だけでなんと約30名を超えている。
三谷幸喜本人ですら「自分で言うのもなんだが、物凄い豪華キャストだ」(三谷, 2006) と振り返るほど。
大河ドラマでもここまで豪華キャストが集まることは珍しいのではないか。
三谷幸喜の作品は、1人で観るのではなく、誰かと一緒に腹を抱えて笑いながら観るのが理想だ。その方が絶対に楽しめる。
出来れば、まだ観たことがないという人と一緒に鑑賞して相手の反応を見たいものだ。
私の1番好きな場面
私の1番好きな場面は次の場面だ。新堂が元妻に出会った際、「マン・オブ・ザ・イヤー」を受賞したという見栄を張った嘘をつく。
そして自分がホテルマンだと言うことを彼女の前で頑なに隠し通そうと悪戦苦闘する。そんな新堂のキャラがコメディに全振りしていく分岐点だ。
今まで真面目でしっかり者のホテルマンとして振舞ってきた新堂が、元妻に出会った途端、態度が急変。
周りの人に対して、偉そうに振る舞う姿があまりにも面白すぎた。
特に、新堂と同じ副支配人である瀬尾に対しても生意気なことを言う場面なんか、お腹が痛くなるほど笑ったものだ。
新堂の鹿に関するスピーチもグダグダ過ぎて観ていて楽しい。
役所広司は、本作のようなコメディ演技をやらしても、シリアスな演技をやらしてもピカイチだ。ダサい男もよく似合うなあ。
どんな役でも器用にこなす芸達者な人であるなあと尊敬の念が止まらない。
役所広司が鹿の着ぐるみを頭に着けている姿は、想像以上に可愛い。この姿は、本作の見所の1つであると言ってよいだろう。
観客が選ぶ「マン・オブ・ザ・イヤー」は新堂一択なんじゃないかな。
おわりに
久々に本作を見返したのだが、やはり文句なしに面白かった。三谷幸喜の作品を観ると、よくこんなストーリーを思い付くよなあと毎回思わされる。
佐藤浩市演じる武藤田勝利という国会議員は、昔観た時にはあまり注目していなかった。
しかし、今改めて観ると当時には、理解しきれなかった彼の葛藤を少しはわかるようになっだ自分に気づく。
彼の最後のセリフ「帰りは遅くなる‥」にグッときたのだ。この頃から三谷幸喜は「嫌われ者だが、どこか憎めない熱い政治家」を描いていたのか。
武藤田勝利のおかげで、三谷幸喜の描く国会議員に興味を持ち、『記憶にございません!』の世界へと誘われることに‥。
このように、昔観た作品であっても、しばらく経ってからもう一度見返してみると、作品に対する捉え方が想像以上に変化していることに気づくはずだ。
だからこそ、名作を観た感想を残しておくことは、自身の変化を感じ取るために大切であることを身をもって感じた。
これからも変わらず「心に残った名作」の感想を書き残していきたいものだ。
本日の名作『THE 有頂天ホテル』
【キャスト】
〈三谷幸喜の演出初体験組〉
新堂平吉:役所広司
武藤勝利:佐藤浩市
徳川膳武:西田敏行
小原なおみ:麻生久美子
右近:オダギリジョー
〈三谷作品常連組〉
竹本ハナ:松たか子
只野憲司:香取慎吾
赤丸寿一:唐沢寿明
矢部登紀子:戸田恵子
瀬尾高志:生瀬勝久
ヨーコ:篠原涼子
神保保:浅野和之
〈三谷作品初参加組〉
堀田由美:原田美枝子
ホセ河内:寺島進
野間睦子:堀内敬子
桜チェリー:YOU
他多数出演
【スタッフ】
美術:種田陽平
撮影:山本英夫
音楽:本間勇輔
脚本・監督:三谷幸喜
【作品情報】
製作年:2006年
製作国:日本
上映時間:130分
参考文献
三谷幸喜 (2006)『三谷幸喜のありふれた生活5 有頂天時代』朝日新聞社
三谷幸喜が自身の生活をコミカルに語る人気エッセイ「三谷幸喜のありふれた生活」。
この第5巻に『THE 有頂天ホテル』製作時期に書かれたエッセイがたっぷりと収録されている。
自らの作品のことを語る制作秘話や裏話などはもちろん、三谷家の話が抜群に面白いものばかりで飽きない。
サクサクと読めちゃうので、癒しのお供にいかがでしょう。
関連作品①:井原西鶴『世間胸算用』新潮社
「くそう、西鶴に三百年以上も先に越されていたとは」。このように三谷幸喜に言わしめた江戸時代の傑作小説。
『THE 有頂天ホテル』と同じく「大晦日」が舞台であり、様々な登場人物が年の瀬からお正月に至るまでの一日をいかに乗り越えたかを描いたオムニバス作品である。
三谷幸喜は『THE 有頂天ホテル』の冒頭に、大先輩西鶴の格言を使うつもりであったらしいが、残念ながらお蔵入りとなった。
三谷幸喜がどんな「格言」を用いるつもりだったのか探してみてはいかがだろう。
関連作品②:『笑の大学』
『笑の大学』(2004)
脚本:三谷幸喜 / 監督:星護
『THE 有頂天ホテル』で「三谷幸喜×役所広司」にハマった方におすすめは『笑の大学』だ。
物語としては、「笑い」とは無縁の人生を送ってきた検閲官と「笑い」に人生を賭ける座付作家。この2人の対決を描いた作品である。
三谷幸喜が演出家ではなく、脚本として役所広司と関わった作品なので、『THE 有頂天ホテル』の役所広司と見比べてみるのも面白い。
真面目で頑固な検閲官を演じる「ザ・お役所広司」を観ることが出来る贅沢な作品でもある。
それでは、次の名作でお待ちしております。
コメント
まだ2022年の折り返し地点ですが、今年の年越し映画が決まりましたね!
言われてみれば役所広司はどんな人物でも上手に演じているな〜
作品ごとにキャラが大きく振れるので、同じ俳優が演じていること忘れちゃいます笑
まおさん、いつもコメントありがとうございます!
この半年の間に今度は洋画で、素敵な年越し映画が見つかるかもしれませんよ。
「映画館で年越し!」なんてこともしてみたいですね。
「日本を代表する名優」は、監督が驚くほど細やかな台本分析をしてくるみたいですよ。三谷幸喜さんは著書で、役所広司さんをそのようにベタ褒めしていました。
本当に素晴らしい役者さんですよね。