舞台の熱量が銀幕で大暴れ!『蒲田行進曲』

いらっしゃいませ。

「名作BAR」のMasterYです。

本日の名作は『蒲田行進曲』となっております。

映画スターの銀四郎、大部屋俳優のヤス、売れなくなった美人女優の小夏の3人を軸に描いたコメディ作品です。

39段の階段落ち。これは本作の代名詞とも言える伝説のシーンとなっています。

階段落ちの映画と言えば、本作を思い出す人も多いことでしょう。それほど記憶に残る階段落ちを、本作では見事に披露してくれているのです。

それでは、本日の「名作BAR」開店です。

物語の概要

映画スターの「銀ちゃん」こと銀四郎に、弟子たちはいつも振り回される日々を送っていた。

大部屋俳優のヤスもその銀ちゃんの弟子の一人。銀ちゃんのわがままな振る舞いに対しても「しょうがないなぁ、この人は」と言いながら、銀ちゃんの身の回りの世話を担当していた。

ただ、弟子たちも銀ちゃんの世話をしていただけではない。世話をする代わりに、彼に仕事を探してきてもらっていたのだ。

この時代には、こうした「スター=親分」、「弟子=子分」とした「親分-子分関係」が確立されていたのである。

ある日ヤスは、銀ちゃんの身の回りの世話を超えた厄介な問題を銀ちゃんに押し付けられる。

それは銀ちゃんの恋人であり、ヤスも憧れていた女優の小夏との結婚であった。

彼女は銀ちゃんの子供を身ごもっており、自身の出世に影響が出てしまうことを恐れた銀ちゃんが、全てをヤスに投げたのだ。

そして、このあまりにも無茶な銀ちゃんからの押し付けを銀ちゃんを慕ってやまないヤスは引き受けてしまう。

小夏の夫となったヤスは、小夏のために出産費用を稼がなければならない。自分の子供ではないということをわかっていながらも。

ここから稼ぐために危険な役者仕事をこなしていくヤスの生活が始まる。果たしてヤスの身体はどこまで耐えることができるのか。

ストーリー自体は単純明快であるのだが、この3人の人間関係は複雑であるという設定が、本作の見所だ。

記憶に残る音楽と脚本の素晴らしさ

メインテーマの「蒲田行進曲」が耳に残って離れない。面白くて、つい口ずさみたくなるメロディである。

物語の始まりと終わりをこの曲で挟み込む演出はとても心地良かったなあ。この曲がかかると、自然とワクワクが止まらない。シンプルだが、記憶に残る素晴らしい曲であった。

また、この素晴らしい音楽をも物語の構成に組み込んだ脚本の素晴らしさも忘れてはならない。

本作の脚本を担当したつかこうへい。よくこれほどまで面白い話を考えついたものである。彼の脚本は、観る者を最後まで退屈させることなんてなかった。

本作は、俳優同士の人間ドラマとしても見応えがある。

だが、それだけでなく、1つの上質なコメディ作品としても本作を完成させている。この辺りが本作の素晴らしい功績である。

役者たちが纏った圧倒的な「熱量」

演劇出身である2人の若い役者たち(風間杜夫と平田満)。

本作は、そんな彼らが、映画の世界に演劇の「熱量」を注ぎ込んだ非常に勢いのある作品に仕上がっている。

この2人によるテンションの高すぎる演技には、圧倒されるに違いない。

2人のやりとりは、もうセリフの大洪水と言ってもいいだろう。それぐらいセリフの量が膨大であったのだ。

出典 : 【YouTube】Netflix Japan 「キャラ名鑑 – 破天荒すぎる銀幕の大スター・銀ちゃん | 蒲田行進曲 | Netflix Japan

よくも噛まずにあれだけのセリフを言えるものだ。

今思えば、この映画の役者の演技は映画の演技というより、つかこうへいさんの舞台の熱気をそのまま映像で再現したような演技だったのではないでしょうか。(大泉洋コメント)

とにかく画面から放射される熱量が半端ではない。役者もカメラも常に高い熱量を放ちながら動きまわる。(『カメラを止めるな!』監督の上田慎一郎コメント)

出典 : 蒲田行進曲 | 松竹映画100年の100選 https://movies.shochiku.co.jp/100th/kamatakoshinkyoku/

このように現代の役者や監督のコメントから見ても、本作の俳優陣の熱量が他の邦画とはケタ違いに大きいことが容易に窺える。

俳優陣に観る者を熱くさせるほどの「演技力」が備わっていれば、作品をこれほどまでリアリティ溢れるものへと昇華させることができるのかと私自身も驚いたものだ。

私の好きな場面

私の好きな場面は、次の2つの場面だ。

1つめは、ヤスが九州の田舎に小夏との結婚の報告をするため、帰郷する場面。

ヤスの地元の人たちは、まるで地元のスターが帰ってきたかのような盛大な出迎えをしてくれるのである。

彼のために、あれだけの人が集まってくれるなんて。私がヤスだったら、なんだか申し訳なくて、居た堪れない気持ちになってしまいそうだ。

みんなのこうした祝福がすごく嬉しい。やっぱりこういった田舎の雰囲気っていいなあ。そう思える良い場面であった。

帰ってくると、心があったまる。それだけでなく、もっと頑張ろうと思わせてくれる「力」も持っているのだ。私も生まれ故郷は大切にしたいな。

そして2つめは、ヤスの階段落ち当日、

ヤスが「晩ご飯まで延期してくれ」と撮影所のみんなに頼む場面である。

この場面での平田満の演技は鳥肌モノであった。

今まで大部屋俳優と揶揄されてきた1人の役者が、この日だけはスターのような貫禄を身に纏うことになるのだ。

1人2役のようなこのヤスの演技には、非常に驚かされたものだ。

急に偉そうな態度になるヤスの演技は、観ていて気持ち良かった。それほど、彼から只者ならぬオーラを感じたのである。随分迫力あるシーンであったなあ。

おわりに

階段落ちの映画といえば、本作の右に出る作品はないはずだ。

凄まじい階段落ちを見事観客たちに見せつけてくれた。本当に迫真の演技であった。階段落ちのシーンでのヤスの演技は、涙がこぼれ落ちてしまうほど。

しかし、つかこうへい脚本の本作がこのまま綺麗に終わりを迎えるはずがない。

観客を裏切るような形で終わるエンディングも本作の特徴であり最大の魅力なのであろうなあ。

最後の最後まで目が離せない楽しい作品であった。

この作品に影響を受けた人は、いまの日本の映画業界にも多いのではないか。観た人の海馬にグサッと刺さるほど記憶に残る、素晴らしい作品であった。

本日の名作『蒲田行進曲』

【キャスト】
ヤス:平田満 ※第6回日本アカデミー賞 (1983年) 主演男優賞&新人俳優賞受賞
銀四郎:風間杜夫 ※第6回日本アカデミー賞 (1983年) 助演男優賞受賞
小夏:松坂慶子 ※第6回日本アカデミー賞 (1983年) 主演女優賞受賞
ヤスの母:清川虹子
監督:蟹江敬三
橘:原田大二郎
勇二:萩原流行
アクション役者三銃士:千葉真一、志穂美悦子、真田博之

【スタッフ】
原作・脚本:つかこうへい ※第6回日本アカデミー賞 (1983年) 脚本賞受賞
監督:深作欣二 ※第6回日本アカデミー賞 (1983年) 監督賞受賞
製作:角川春樹
撮影:北坂清
音楽:甲斐正人 ※第6回日本アカデミー賞 (1983年) 音楽賞受賞
題字:和田誠

【作品情報】
製作国:日本
上映時間:109分
第6回日本アカデミー賞 (1983年) 作品賞受賞

出典 : 【YouTube】松竹チャンネル/SHOCHIKUch「あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション『天城越え』『蒲田行進曲』11/5リリース!」

関連作品①:つかこうへい (1982) 『蒲田行進曲』角川文庫

なんと、『蒲田行進曲』の原作は第86回直木賞受賞作である。つかこうへいの小説は、彼自身の手掛けた舞台を自らの手で小説化させたものが多い。

「小説から劇へ」取り入れられた作品は多いが、「劇から小説へ」の道を成功させた人は珍しい。その立役者がつかこうへいである。

映画との違いを直木賞作品で味わえるのは贅沢だなあ。

関連作品②:『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎』

『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎』(1981)
脚本 : 山田洋次、朝間義隆 / 監督:山田洋次

『蒲田行進曲』で美しすぎる松坂慶子の虜になった方へおすすめなのが、『男はつらいよ』シリーズ第27作目。寅さんのマドンナ役が松坂慶子なのである。

大阪が物語の舞台となっているので、大阪好きな人も楽しむことができるのもいい。

松坂慶子の美貌を堪能できる贅沢な1作。ちなみに、松坂慶子は本作で「第5回日本アカデミー賞 (1981年)の最優秀主演女優賞を受賞している。

関連作品③:『連続テレビ小説 カムカムエヴリバディ』

こちらの朝ドラのロケ地となった「東映太秦映画村」。実は『蒲田行進曲』のロケ地でもある。

松竹映画である『蒲田行進曲』は「松竹蒲田撮影所」を描いている。

しかし、実際の撮影場所は「東映太秦撮影所」であったのだ。当時としては相当ひねくれた作品となっていた。

『カムカムエヴリバディ』と『蒲田行進曲』のロケ地巡りを同時にできるのは『東映太秦映画村」だけ!

朝ドラファンも名作BARのファンも、京都に立ち寄った際には、ぜひ映画村へと足を運んでみてはいかがでしょう?

それでは、次の名作でお待ちしております。

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